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「あのっ、先輩・・・ちょっとお話が・・・ ・・・ダメ! だってこんなのって・・・迷惑ですよね?」


それにしてもこのタイトルは気恥ずかしい。


シベリア少女鉄道「あのっ、先輩・・・ちょっとお話が・・・ ダメ! だってこんなのって・・・迷惑ですよね?」@座・高円寺1。4月20日、楽日に観劇。


おなじみの派手なテイクバック、安定の空振り三振。でも、それすらもエンターテイメント。不満に思ってそうな観客もあまりいない。なんというか、もはやプロレスの域か。以下、ネタばれ注意。


大筋は、いつもどおり。メタレベルで張った伏線を、終盤に一気に回収。パースペクティヴやらパラダイムやらをガラッと転覆させて怒濤と目眩と爆笑(もしくは失笑)のうちに幕へとひた走るという展開。今回は、シベ少おなじみの役者3人がキャストに入っていなくて、プログラムのスペシャル・サンクス・トゥの欄にクレジットされていること、さらに開演前に観客の前でその先輩役者3人を劇団主宰の土屋氏が紹介することが、伏線だった。シベ少ファンなら、もう、この開演前のミニコントがきな臭くて仕方が無いといったところ(もちろんきな臭さがイヤなわけではなく、むしろうれしかったり)。


その先輩3人抜きで淡々と進むのが、高校の生徒と教師をめぐるメロドラマ。ところが観客席最前列に陣取った先輩3人が、突然、舞台に上がったり、演技中の役者にちゃちゃを入れ始める。最初は、キャストの面々も必死に先輩3人を無視してストーリィを進めようという身ぶりを見せるのだが、だんだん、先輩3人の妨害がエスカレート。ある地点で、キャストが一致団結して、先輩3人を物理的に排除することを敢行、やむなく先輩3人は舞台上から姿を消す。・・・と、ここまでがオチ前の展開。オチはどうなるかというと、恨み辛みに貫かれた先輩3人が、舞台上に某『進撃の巨人』の巨人的な身体の部位の着ぐるみで登場する。


キャストが必死に紡いできた「人間」の世界を圧倒する、「巨人」たち。・・・もう典型的なシベ少なんだなあ。月9のトレンディドラマのクライマックスで、ヒーローとヒロインが結ばれようというその瞬間に、空から悪魔超人が降りてきてヒロインをさらう、・・・的な世界観こそシベ少。それでいうと、土屋氏はここにきてもっともオーソドックスな引き出しを再び開けたということになる、・・・たしかに「巨人」という新しいギミックを用いてはいるけれど。さて、わたしもたしかに「巨人」が登場した瞬間はきもちよく笑えたけど、その笑いは一瞬で鎮火したのだった。そのあとは、この「巨人」というアイデアに殉じる土屋氏と劇団員の「苦しさ」が見所となって、たしかにそこで起こる失笑もシベ少の醍醐味なのだけれど。


わたしは、どれだけ三振を見せつけられても、どれだけ失笑をすることになっても、シベ少を支持したいと思う。それは『永遠かもしれない』や『もう一度、この手に』のようなスカッとする場外ホームランを見たことがあるからだ。そこで、三振とホームランの分水嶺がどこにあるのかを少しだけまじめに考えてみた。


それはたぶん、パースペクティヴやらパラダイムを一気に転覆させる力、その力を発動させるメタ的な梃子がはっきりと実体を取るか、取らないかの違いだと思う。わたしがココロのそこから賞賛して止まない『永遠』や『もう一度』では、この梃子が不可視のシステムとしては顕在化するものの、たとえば「猪木」や「北斗の拳」や「まどマギ」や「巨人」といった実体ではなかった。たとえば、たしかにラブストーリィのハイライトに悪魔超人が空から降りてきたらインパクトは絶大だ。けれども、その悪魔超人の姿を演出とプロットのすきまに微分しつくすことができると、そのインパクトの射程はほんの少しだけ延ばされる。


この「ほんの少し」が大事なのだと思う。「ほんの少し」だけ射程が延びれば、キャストたちは閉演の向こうまで逃げおおせる。幸せであっても内輪的な失笑に足を取られずに済む。それだけで、観客の受け取る印象は大きく変容するのだ。でも、土屋氏にしてみれば、そうそう実体を持たなくとも有効な梃子というのは考案できないのかも知れない。


繰り返すけど、内輪的で幸せな失笑を共有することは、けっして居心地が悪いわけではない。そうではないけれど、その失笑だけでは、演劇という不可能に近い営みのダイナモにはなり得ない。テイクバックの大きなフルスイングで、三振かホームラン。一億総安定志向のこのご時世、そんな気っぷのいいスタイルを貫いているその事実に、拍手を惜しむことはない。でもまた『永遠』や『もう一度』のようなパースペクティヴとパラダイムが転覆されたままに昇華していくような奇跡を見たい。その奇跡を信じているから、わたしはいまでもシベ少に票を投じる。


ダコーザ・ナッシェ・コーザ。

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