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桜の園


三谷幸喜演出・浅丘ルリ子主演、・・・のは、たしかに森ノ宮で見たのだけれど、今回の感想文はそっちではなく、地点の三浦基演出バージョン@アンダースローのもの。観劇は6月20日。


チェーホフはもはや地点のお家芸とも言えるレパートリィ。「お家劇」という言葉を使う以上、それはいい意味もわるい意味も両方あることを指摘したいわけで。わるい意味というのは、やっぱりマンネリ。三浦氏の代名詞ともなったセリフを意味では無く音で裁断したうえで、一聴して「無頓着なように」接合するおきまりのセリフ術。この地点の言葉の魔法がいちばんハマるのは、まちがいなく、チェーホフだ。この21世紀の現代において、チェーホフをいちばん刺さる感じで上演するのは京都・北白川で活動する地点ではないかと思う。で、見る方もそれを期待して劇場に来るし、やる方もその期待にばっちり応えるし、そこでは方程式が成立するけれど、その解があまりにも整然としているために、ライブパフォーマンスとしてややもったいない感じに思えなくも、ない。


これが、平田オリザ演出の青年団の舞台だと、たぶんそうは感じない。平田氏の舞台では方程式がどこまでもきれいな解に成立すればするほど、観客は目の前で再現された世界観にしみじみ浸ることができる。たぶん、青年団の上演の受容は、いまではやや古めかしい近代的な「内面化」の要請に応えるところから始まるのであって、その意味において、内向きの閉じた予定調和はパッと見、アキレス腱とはならない。けれども地点はちがう。あれほど挑発的な演出法でもって古典的脚本を上演していくのであれば、否応なく、受容側のハードルも上がっていかざるを得ない。そのつり上げていく賭け金の質料にこそ、地点という劇団のアイデンティティがあるのだから。


そして実際、チェーホフ以外の脚本に挑む地点は、たしかにこの賭け金の質料をずっしりと感じられる刺激的なパフォーマンスを提供する。けれども、それはこれまでのところ、かならずしも成功していないとわたしは思う。以前にわたしは、三浦氏の過激な演出に脚本の言葉の強度が追いついていないからだと指摘したことがあった。チェーホフほどに堅固な言葉であればこそ、映えるスタイルなのだと。ところが、シェークスピアではチェーホフほどにグッと刺さる感がなかったりして、わたしのこの仮説はちょっと的外れかもしれないと考え始めている。ブレヒトもしかり。言葉の強度、というよりも、チェーホフという作家個人の世界観とのマッチングが鍵だったのかも。もしそうだとしたら、いよいよ足かせは外れなさそう。


そもそも、これだけ演出が上演によってハマったり、ハマらなかったりということがあるというのは、継続的に活動していく劇団としてあまり褒められたものでないのはたしかだとは思う。より自分の方法論を客観的に捉え直して、取捨選択、もしくは戦略的撤退と戦術的抽出を遂行すれば、もっと「打率」が上がっていってしかるべきなのだと、素人目にも思ってしまう。ただ、そんなふうに忸怩たる思いを抱えつつも、やっぱり地点の上演が見られるなら見ようと思い続ける理由は、チェーホフ作品の上演のクオリティの故にである。床面に正方形の枠上に一円玉を敷き詰め、旧来の貴族階級のユートピアであるその境界がプロレタリアートによって踏みにじられ、崩れていく演出はややわかりやすすぎる気もするけどまだまだおもしろい。その足で弾け飛ぶ一円玉の音、音の悲哀。そしてばらばらに乱れた一円玉は、ハイライトの場面では散っていく桜の花弁となって、鈍い輝きを放ちつつ、滅びていく貴族階級の後ろ姿にそっと紅をさす。大女優・浅丘ルリ子の圧倒的な存在感でもってラストシーンを飾るのもたしかに演劇的カタルシスに満ちてはいるけれど、こういう知的で繊細な演出でパフォーマンス的カタルシスを創出してくれるのであれば、もう細かな文句はどうでもよく思える。そしてなにより、安部聡子の超絶技巧。あいかわらず、素敵だった。浅丘に、ぜんぜん負けてない。


・・・じつは、キャストでひとりだけ、セリフ回しの技術が個人的にひっかかってしまうひとがいて、それがとてもとても残念だったのだけれど、次、また見に行くときまでに修正されているといいな。・・・などと、リピータの上から目線でぼそっとつぶやいてみたり。


今度、いま住んでいるところのすぐ近くの劇場に、地点が来るらしい。シェークスピアをやりに。楽しみ。でも、地点の制作氏から宿題をもらってしまっているので、それに答える準備をしないと。ぬぬぬ。


ダコーザ・ナッシェ・コーザ。

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