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朝日を抱きしめてトゥナイト


ロロ『朝日を抱きしめてトゥナイト」@こまばアゴラ劇場、7月16日ソワレ観劇。


初見の劇団はひさしぶり。2009年旗揚げで主宰の三浦直之氏が脚本と演出も兼ねる。今作が10作目。けっこう、チケット取りにくかった。最終的にはソールドアウトだったみたい。わりと小耳に挟む劇団で、似たような他の小耳に挟む劇団のなかでも、評判がちょっと気になるものが多かったので、行ってみる。初見の劇団を小劇場に観にいくという経験は、やっぱりいつでもかなりスペシャル。


物語は、ヒロインの女の子が自分の産まれたときのエピソードを追い求めるのが基調になっていて、その女の子の兄が厨二病をこじらせたあげくに派手に挫折したり、その兄に激しく屈折した恋心を抱く別の女の子がいたり、そんな若者たちのなんやかやを包むようなコミュニティの熱量がすごかったり。とにかく、わたしはこんなスラップスティック調の演劇を久しぶりに見た。徹頭徹尾、しっちゃかめっちゃかに役者が動き、叫び、笑いを狙う。


この感じ、わたしは一番近いのは、全盛期の第三舞台じゃないかと思った。遊眠社ではない、第三舞台。「道具の見立て」でグリグリプロットを推進する感じはNODA MAP時代の野田さんぽいけど、そもそも野田氏ほどのかろやかな疾走感はない。そうではなく、もうすこし泥っぽい感じの推進力で、それはわたしのなかでは鴻上氏っぽい加速度なのだった。筧さんや勝村さん、小須田さんがこの舞台ではしゃいでいても、まったく違和感が無い感じ。


・・・その時代錯誤感が、ちょっと新しく感じてしまった。それはなぜだろう。80年代のスラップスティックなスタイルを、90年代の静かな演劇の牙城に持ち込んでいることに軽く目眩を覚えつつ、完全に突き放して冷淡になりきれない自分が興味深く、考えこんでしまった。もちろん、ロロはどたばた走ったり叫んだりするだけの舞台ではなかった。ラストシーンの「みこし」の場面などは、根源的な生の肯定に他ならず、その肯定をできるだけ恥ずかしさを抑えつつ成立させるための伏線もきちんと機能していて、見た目の荒っぽさとは裏腹に繊細な作劇操作も感じられて、感心するところも多かったのだけれど、でもそういうのって、そのまま第三舞台の特徴でもあったわけで。


あまり自信はないけれど、たぶんこんな80年代風の仕上がりであるにもかかわらず、ロロは「話すこと・叫ぶこと・走ること・跳ねること・しゃがむこと・立つこと」という舞台上の所作すべてにかんして、徹頭徹尾、ナルシシズムを排除していることが新しいのではないかと思う。第三舞台の役者がそれとは逆に、すべての瞬間が(鴻上氏の)ナルシシズムの発露に他ならず、その内向きのベクトルが観客も含めた求心力に変わっていたのに対して、ロロではベクトルが内向きではなく、ただただ回遊するマグロのように舞台上を循環するだけだったのだ。


スタイルの回帰を試みるまえに、21世紀の演劇が向かい合う「恥ずかしさ」のようなものをきちんと引き受けているからこそ、この2010年代にもぎりぎり成立しうる舞台になっているのではないかしらん。まあ普通に考えたら、「恥」を知りつつもあれだけはちゃめちゃにドタバタをやるのはなかなか大変なことなのだと思う。でも、役者はみんなすごく鍛えられていて、身体も声も、じつによく躾けられていて、随所で自由にパチンと弾けるポイントを生み出していた。そこは素直に感心した。とても上手い。


あと、一般的にロロの代名詞ともなっている「道具の見立て」について。モノのモノ性みたいなものをがっつり舞台に活かすといえば、わたしのなかでは維新派がダントツのスケールとクオリティで印象的なのだけれど、維新派が圧倒的なモノ性を現出させて、演者をごりごり鍛えてあの独特なダンスで身体性を対置させ、それを均等にならしていくことでヒューマニズムの生ぬるさを駆逐するのだとすれば、ロロは狭い舞台のなかにこれでもかと詰め込んだモノと役者を、どっちも同じようにグリグリ動かして攪拌することで、バランスを取るよりもモノとヒトの混ぜ物のような光景を生み出している気がする。ただ、このバランスは微妙で、ともすれば役者の身体性があまりにも激しくてモノ性を徐々に屈服させてしまいそう。もちろん、今回の作品は、ラストのあのみこしの場面を成立させたいという動機からすべてが始まったものだと思うし、実際、そのラストの場面は実に美しい混ぜ物だった。でも、役者の身体があまりにも仕上がって動けるために、道具の展開が時折やや追いついていない気もした。とにかく、道具班に惜しみなく予算と時間を回すことが生命線じゃないかな。そしたら、もすこし大きなハコでもぜんぜん成立しそうだし、むしろ、もうすこし大きなハコでごりごりモノ性と身体性がミックスされるジューサーを見てみたい。


そしてそのジュースを飲んでみたいなと思った。


ダコーザ・ナッシェ・コーザ。

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